身近にある絆第一話

身近にある絆(第一話)

･･･
･･････
･･････
ピピピピピピピピと、枕もとで何かが鳴っている。
ひよこか、かえるか知らないが、どうやら俺の眠りを妨害するのが目的らしい。
･･･
ピピピピピピピ、という音は一向に消えない。
むしろ、だんだん音が大きくなってきた。
それにしてもひよこにしてはずいぶんと鳴き声が大きじゃないか。
音ががんがんと頭に響く。
「･･････ん～･･････だ～～！」
もう寝てはいられない。
ガバッと体を起こし、音速の速さで枕もとにあるなぞの物体を掴み、叩く。
それでやっと、俺の安眠を妨害する物体が押し黙った。
眠い目をこすりながら、その物体が何かを確認するとひよこではなく、時計だった。
短い針は7と8のあいだを指して、長い針は6を指している。
どうやら時刻は7時30分らしい。
まだ寝ていられる時間は十分にある。
やはり、ここで寝るのが男と言うものだろう。
寝たい自分自身に適当な言い訳をつけて、二度寝に入る。
「･･････」
暗黒がまぶたの裏から押し寄せてくる。
二度寝独特の快感が体を包み、とても心地よい。
･･･あと、10分でいいから寝かせてくれ。
･･････
･････････
「どわっ！」
どのくらいの時間が立ったかわからないが、
まどろみを楽しんでいると、まだピピピピと、時計が鳴り始めた。
突然の音に驚き、思わず体を瞬間的に起す。
止めたはずの時計がまた鳴っている。
でも、枕もとからじゃない。
「どこから聞こえてるんだ？」
目を左右に動かし、耳を済ませてどこから聞こえてくるかを探す。
無い無い無い･･･
「あ。」
ブツはドアの下にちょこんと置いてあった。
デジタル表示板の時刻が点滅してアラームの時刻を知らせている。
なぜ、ドアの下なんかにあるんだろうか。
俺はそんなめんどくさい事をするほど暇じゃない。
「ったく。」
布団からもそもそと芋虫のように這い出ると、ドア元まであるき、時計を手にとりボタンをぽちっと押す。
するといままでぴーぴー鳴いてた時計が静かになった。ついでにアラームのスイッチも落とす。
なんとなく、手の中にあるデジタル時計を見ると、液晶の端のほうに4/4と言う表示があった。
「そういえば始業式だっけか。今日は。」
だから、目覚ましをかけておいたのか。
分かっていながらも自分で納得する。いつも思っているのだが、春休みは短い。
あと１週間でいいから伸ばしてもらいたいと俺は思う。
「あ～あ眠い～」
そんな事を言いながら、時計を棚に戻す。
ギシギシとなる床を踏みしめて窓際に歩きより、緑色のカーテンを思いっきり開ける。
「っ！」
カーテンを開けた瞬間に目が真っ白になり一瞬何も見えなった。
まるで、貧血で倒れる寸前のようだ。
しばらくすると、目に色が戻ってきた。
「お？」
窓ガラスをあけると、春の風が部屋の中に吹き込んできた。
空は突き抜けるような青一色だ。濁り気は全く無い。
「いやーいい天気だぁ～」
柄にも無くそんな事を言う。
それに、家の前にある公園の桜がきれいに咲いていて、学校に行くのもはばかれる。
その風景と春の風に包まれながら、背筋を思いっきり伸ばす。
バキ･･･と、腰が豪快に鳴った。

着替えを適当に終わらして、階段を下りる。
リビングは階段を下りてすぐのところにある。
「おはよ～。」
木目調のドアを開けて挨拶を交わす。
「おはよう。今日は早いんだな。」
「朝食できてるわよ。」
「おはよう。英君。」
「ん？」
なにかしらないが、返事が一つばかり多い。
うちは俺を含めて、3人家族だ。
つまり、返事は二つしか返ってこないはずだが･･･。
「そこで新聞を読んでるのがへぼ親父で。」
「･･･うるさい」
「キッチンでせかせかとアリみたいに動いてるのが、おふくろさんで。」
「はいはい。早くご飯食べなさいよ。」
「ソファーに座って優雅にコーヒーらしきものを飲んでるのは、･･･誰だ？」
「英君は朝からひどいなぁ。」
俺が知らない人物は親しげに俺に話し掛けてくる。
「なあ、親父。いつ隠し子なんか作ってたんだ？」
俺が一言言い放った瞬間、ティッシュの箱が顔面に飛んできて、ゴスッという音を立てた。
お、親父、フェアーじゃないぞ。
足元に転がっているティッシュ箱を見ると、無残にも角がかなりへっこんでいた。
「ぐっ･･････な、な、な、なな、なんでここに美咲がいるんだ？」
顔面を右手で覆いながら、ソファーに陣取っている美咲に聞く。
「舌噛むぞ。」
親父の言葉はスルーしておく。
「で、なんでいるんだ？」
改めて俺が聞くと、美咲はティーカップを置いた。
「やだなぁ～、昨日明日一緒に学校に行くって言ったじゃない。だから、ここにいるの。」
そういえば、美咲は学校の制服を着ている。
久しぶりに見たような気がするぞ。
「お前も、わざわざ来てもらってるんだから、お礼の一つぐらい言ったらどうだ？」
「分かったよ。･･･美咲～、いつもいつも悪いな。」
ぺこりと頭を下げる、美咲にはいつも助かってるからな。
「もしかして、ドアの下に時計置いたのはお主か。」
「そうだよ。それぐらいしないと英君起きないじゃない。」
「それは、俺がねぼすけだとでも言いたいのか？」
「うん。」
「ああ。」
「そうだわね。」
リビング及びキッチンにいる合計3名がいっせいに返事をした。
しかも、タイムラグほぼなし。
「･･････」
「･･････」
「･･････」
「･･････」
リビングとキッチンが一瞬静寂に包まれる。
聞こえているのは、時計の音と、外から聞こえるすずめの鳴き声。
俺はそんなに遅刻した経験は無いぞ。
この前遅刻したのは、終了式で、そのまえは終了式の前日･･･
「･･････」
「朝ご飯食べなさいよ。」
沈黙はは母さんの一言で終わった。

「じゃあ、行ってくるでござる。」
「失礼します。」
ドアを豪快に開けて外に出る。
美咲は俺の後ろに続いて出てきた。
外に出ると、桜の匂いがするような気がする。そのぐらいに桜が咲いている。
いつも、この時期になると隣の公園の桜の花びらが、家の庭まで侵入してきて掃除が大変だ。
たしか、去年も俺が掃除をやらされたような気がする。
芝生に挟まってとるのが大変だった。
「いい天気だね。」
「そうだな～、学校行かないで花見でもするか。」
桜の咲いている公園を見ながらそう言う。
公園内は桜がかなり咲いていて、花見をするには絶好の場所だと思う。
これを逃したら次は無い。
「だめだよ。今日はクラス替えの開示じゃない。それに3時限目までしかやらないんだから、行かないと。」
美咲は少し困ったような顔でそう言った。
「へいへい。」

俺らの高校は小高い丘にある。
開校してから10年も経ってないらしく、かなり新しい。
職員玄関なんか、自動ドアだ。
この、高校には家から歩いて10分ぐらいかかる。
自転車なら3,4分と言うところだろう。
丘の標高というか高さは20m位しかないので、自転車でも根性をだせば普通にあがってくれる。
ただし、1時間目は撃沈を余儀なくされる。
「今日から新学期か～。」
学校までの短い上り坂で俺は話を持ち出した。
「そうだね。同じクラスになるかな。」
「お前は理数系だから、E組だろ？」
「私は総合だよ。なんでEに行くかな～。」
クラス分けはA,B,Cが総合で、Dが文系。Eが理数系と決まっている。
もちろん、俺は楽な総合だ。
「冗談だ。冗談。」
「む～。」
「ははははは。」
美咲は顔を膨らませて、怒っている。
俺はそれがおかしくて笑ってしまった。
ちなみに、美咲は俺の幼馴染。家も隣にあるからしょっちゅう顔を出してくる。
勉強はクラスでいつも上位を争っているぐらいの実力の持ち主だ。
俺の学力とはそれこそ天と地ぐらいの差がある。
美咲が所属している演劇部では『ヒロイン確実だ』などと、噂が立っているらしいが、
俺は美咲が演技しているのを見た事が無いので分からない。
あと、趣味はガーデニングだろう。
自分の部屋のベランダから外を見ると、土いじりをしてるのをよく見る。
まあ、そんな事を含めて他人に自慢するにはぴったりの幼馴染ってとこだ。
「それより、勇治君と玲菜はどうなるのかな？」
顔を膨らませていると思ったら、ころっと話を変えてきた。
もうちょっと、ラグがあってもいいと思う。
「勇治も玲菜もどうなるかは天しだいってとこだろう。」
「おんなじクラスになれたらいいな。」
「まあ、4人とも同じクラスになる確率は、かなり低いだろうな。」

校門の前まで来ると、勇治が校門の前に突っ立っていた。
「なんだ？朝っぱらから売れない美術部の勧誘か？」
「一言多い気がするがまあいいか。」
そう言ったのは俺の友人で俺と同じ美術部所属の萩原勇治。
部員があまりいないためか、部長になっている。高校一年からのクラスメイトである。
寮に住んでいて、たまに俺が押しかけたりする。
「おはよう勇治君。」
「ああ、おはよう。」
勇治は軽く右手を上げて美咲と挨拶を済ませると、
俺のほうに向き直った。
「一年生はまだ入学してないだろ。それに入学式は明日。」
本当か？と言う意味をこめて美咲に目をやると、『うん』とうなずいた。
どうやら、勇治が言っていることに間違いはないらしい。
「ちなみに言っておくと、勧誘は英にも手伝ってもらうよ。」
「え～～!?」
俺は勇治に向かってブーイングをかけた。
いくら勧誘しても美術部に入る人はいないと思う。
この大川西高校は美術より演劇とかに行く人が多い。
それに部の種類も様々あるから、選り取りみどりだ。
妥協してここの部に入ろうなんて人はほぼいない。
「ところで、勇治君はクラス名簿表見た？」
「そうだ、それが気になってたところだった。」
「まだ見てないよ。みんなで見たほうがいいと思ってね。」
勇治は少し笑いながらそう言った。
「じゃあ、早速見ようじゃないか。」
3人が並列になって、昇降口に向かう。
よくよく見ると、昇降口の入り口には人だかりが出来ていた。
「うむ。見たくもなくなる光景だな。」
まったく、隙入る隙が無いほどの混雑振りだ。
いつも混雑のメッカと言われている売店のおじちゃんもびっくりだ。
「暇人連中だな～。見たらっさっさと散ればいいものの。」
そんな事を呟きながら、ちらっと、勇治と美咲の顔を見ると、微妙に二人とも表情が引きつっていた。
さすがに、20人ぐらいが同時に縦50cm横1mの狭い表を見ているのだから、顔が引きつってしまうのは仕方が無い。
「見れそうに無いね。」
「そうだね。」
二人とも諦めムードだ。
仕方が無いな～。例のわざを使うか。
「ちょっと見てろ。秘術を見せてやるからな。」
俺はそう二人にいうと、群れに近づいた。
近くで見ると人だかりの迫力は数倍だ。
大きく息を吸い込み、声の確認をする。
「あ、あ～～」
よし。問題は無い。
「『なーにをしてるがな。こんたなもの見たらさっさと教室にいけ。行かないと減点だ。減点！』」
俺が言い終わった瞬間、群れの行動が一瞬止まった。
さすがボスの真似は効果大だな。と自分で納得する。
「え？いまのボス？」
「ボスか？」
みんなが振り返り減点の王である声の主を探す。
「いや、俺だ俺。」
「なんだ、英則かよ。」
元クラスメイトは俺を確認するとそう言った。
「なんだとはなんだ。ちなみに、さっきのは和田ボスからの伝言だから、さっさと散ったほうがいいぞ。」
『しかたがないな～』とか『え～』などと口々呟きながらがら群れは蹴散らされた雀のように散っていった。
「うし。」
心の中でガッツポーズを決める。
うむ、いい気分だ。
後ろを振り向き、右手で二人を招き寄せる。
「さすが、英則だな。」
「すごいね。」
歩み寄ってきた二人はそう言った。
美咲は目を輝かせている。
「なに、たいした事じゃないぞ。もっとも聞かれてたら俺が減点だがな。」
和田ボスの減点は挽回が出来ない事で有名だ。
下手をすると数学と技術が赤点になる。
実際に、1年のころそれで減点になった哀れな男がいた。
「まあいいや、どれどれ、･･････」
さっきから騒ぎになっていた白い紙を覗き込む。
ABCにわかれて名前が記入されている。
3人で表を覗き込む。
A･･･
「か･･･か･･･かり･･･ないな。」
次にB
「･･････おおわだ･･･きのした･･･」
ここにも無い。すると残るは･･･
C･･･あった。
Cに堂々たる「仮谷英則」の名前発見。
「俺はCだな。」
「あ、私も。」
「自分もだね。」
「なんだ、みんな同じじゃないか。」
はははとみんなで笑った。

「ふふふ。」
昇降口に入り、昨年の2年生が残していった新しい下駄箱を確認して中靴を履くと、
美咲が微笑みながら近寄ってきた。
「なんだ、美咲。頭がいかれたか？」
「なんでもないよ。」
まったく、訳のわからん奴だと思う。

･･･
･･････
「げ、玲菜もこのクラスだったのか。」
新しいクラスに入った瞬間忘れていた人物の顔が目に飛び込んできた。
その、忘れていた人物というのは、小宮玲菜である。
他のクラスメイトと話をしていたが、俺がそう言った瞬間こっちを向いた。
「『げ』とは何よ。『げ』とは。」
玲菜が訝しげにこちらを見る。
玲菜はクラスいや学年一の"美女"と言われている。
運動能力は抜群で、弓道部に所属している。
なぜ、俺たちと付き合い始めたのかは全く分からない。
「下手な事をすると、今度こそ弓道部の雑用やってもらうからね。」
「え～～」
心の中で今に始まった事じゃないだろ。と言う。
去年もなぜか知らないが俺は弓道部の雑用をやらされていた。
「射るよ？」
玲菜はにこやかな顔でそう言った。本能的に頭の中で警告音が鳴り響く。
下手に動いたら殺されるな。と思う。
なんだっけか、ことわざでウサギがどうだこうだとあったような気がするが。
「すまん。」
ここは素直に謝って、危機を脱する。
新しいクラス編成で始まったばかりの新学期から殺されていては洒落にならない。
それに、玲菜の放つ矢の命中率は"かなり"高い。
「あ、美咲もこのクラスだったんだね。」
「玲菜もこのクラス？」
少し遅れて、勇治と美咲がクラスに入ってきた。
「そうみたいだね。」
「賑やかになるな。」
勇治が楽しそうにそう言った。
「だね。」
美咲も同意する。
「おう。」
俺も一応返事。
この4人つまり、俺と美咲、勇治、玲菜の4人がおんなじクラスになったのは初めてだ。
一年のときは勇治と玲菜とは同じクラスだったが、美咲とは別のクラスだった。
「こいつと同じクラスなのはちょっとあれだけどね。」
玲菜は俺を右手で指差してそう言った。
「あれとはなんだあれとは。」
玲菜の言葉には反論したが、
今年は絶対に何かはありそうだ。そう強く思わずにはいられなかった。

2003/12/09

2003/12/09

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